にゃんこくらげの読書日記

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本好きの会社員が、好きなように本の感想を書くだけのブログです!

『八朔の雪 みをつくし料理帖』-時代小説でもピカイチのヒロインによる心温まる嗜好のシリーズ!

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#八朔の雪

#みをつくし料理帖

#髙田郁

#あらすじ

幼くして天涯孤独の身となった澪は、大坂の粋筋から愛される料理屋「天満一兆庵」に拾われた。

始めは女衆としての奉公を始めた澪だったが、その優れた味覚を店主嘉兵衛に見出され、板場へ入ることを許される。

ところが、これからようやく本格的な修行が始まるというところで、天満一兆庵は火事に合い、澪は再び居場所を失う。

 

天満一兆庵の"ご寮さん"芳と二人肩を寄せ合い、慣れない江戸で奮闘する澪は、何度でも顔を上げ青空を探す!

美味しい料理を目指してひたむきに頑張る澪と、彼女を取り巻く人情の物語。

#感想

江戸時代の物語って良い…(しみじみ)

読み終わった後も、ずっとずっと噛み締めていたい気持ちでいっぱいです。これがシリーズ物だということに感謝。

また素晴らしい作品に出会ってしまったぜ!

 

主人公の澪ちゃんは幼い頃に、著名な易者から「雲外蒼天(うんがいそうてん)」人生に苦労が絶えないと予言されます(可哀想)

そして事実、大切なものを何度も何度も奪われ、本当に苦労することに…

それでも彼女のひたむきさ、まっすぐさが周囲を動かし、やがて笑顔を運んできます。

 

優しくて謙虚で頑張り屋さんの澪ちゃんはもちろん、江戸の町で澪を拾ってくれた蕎麦屋「つる家」の旦那さん種市も、いつでも味方になってくれるお医者の源斉先生も、ここぞ!という時の小松原さまも皆みんな大好き!(突然の愛の決壊)

特に、澪を優しく懐深く見守りながら、品を失わないご寮さんこと芳が素晴らしいのです。

自身も、大切な店と夫を亡くして身体を壊すほどなのに、澪を案じる優しい母目線なの泣けるし、かと思えばウィットに富んだ返しで厄介な客を煙にまくのとか、カッコ良すぎで惚れてしまう(´・ω・`)♡

 

キャラクターへの愛も止まらないのだけど、忘れちゃいけない、作品を彩る美味しそうな料理たち

澪が一生懸命生み出したそれらは、決して派手で華やかなものではないけど、澪という料理人の人となりが見えるようなものばかり!

 

今回は名前だけだったあの人にも、いつか作中で会えるのを楽しみに…

次巻も早く買ってこなくっちゃ‼︎♡

『大鞠家殺人事件』-船場商家を舞台としたミステリ好きのミステリ!

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#大鞠家殺人事件

#芦辺拓

#あらすじ

明治も終わる頃、商人の町、大阪船場で化粧品をメインとした小間物商で急成長を見せていた大鞠百薬館の長男、千太郎が神隠しにあった。

 

それから数年後、千太郎の妹喜代江が番頭を婿取りする形で大鞠百薬館の主人夫婦と収まる。

しかし折しも時代は戦争中、威勢よく報道される内容とは異なり、日本国中から物が無くなりつつあった。

 

そうして悪夢の大阪大空襲へと向かうのだが、あまりにも多過ぎる命が消えるその前に、かつては栄えた大鞠家でもそれと異なる理由で命が消されていった。

怪異な事件の連続!犯人が背負うものとは?!

 

#感想

"丁稚"に"番頭"、船場言葉。

厳格で威圧感のある"お家さん(おえさん)"に、我儘で勝手な"お嬢さん(いとさん)"、ゴリゴリの商人文化に馴染めず悩む"ぼん"…

とうに失われた文化の中で起こった惨劇の日々を描いた本書は、金田一耕助を彷彿させるものがありました。

 

この中に身を置きたいとは思わないけど、封鎖的な空間で人間が作り上げた文化への一種の憧れは禁じ得ません。

耽美的というか、変態的というか…

怖いもの見たさ。

そういった中で起きる惨劇。

 

最初に金田一耕助作品を彷彿させると言いましたが、実は全然違うんですよね。

金田一も余所者として事件に関わるけど、なんというか、その文化を受け入れ敬意を払って"その中に参加してる"という感じ。

かたや本書は、"外から見ている"感じがしました。

名家の衰退から、何もなくなったあとを振り返っての話だからかしら…

 

今の時代の作家さん(そしてミステリへの愛が深い)だからこそ書けた作品。そう思います。

物語の中盤から後半、相次いで登場する人物、それすらトリックに使うとはおみそれしました。その割には解決編が割とあっさりされてますけど…

 

戦争中にあっても無邪気な女学生だった文子ちゃんと、どんな時も品と優しさを忘れない美禰子さんが好きでた。

目まぐるしく変化する時代の中でも変わらない女性の強さが、好ましいのだろうなぁ。

『月の満ち欠け』-人間臭さとロマンチシズムの同居

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#月の満ち欠け

#佐藤正午

#あらすじ

小山内(おさない)堅は15年前に、妻の梢と娘の瑠璃を事故で亡くしていた。

亡くなって何年も経ってから、その瑠璃に関する信じがたい話を聞かされる。瑠璃は別の"瑠璃"の生まれ変わりだというのだ。

にわかには信じられない小山内だが、生前の妻は娘の異変に気づいていたのではないかとの思いもよぎる。

 

彼女に関わる男達が語る幾人もの"瑠璃"。

彼女は娘であり恋人であり、妻だった…

何度亡くなっても、また生まれ変わる。月の満ち欠けのように繰り返される、数奇な物語。

 

#感想

直木賞受賞作品。

この感想は正直とても難しくて、いっそ書かないでおこうかと思った位です。

正直、好みではなかったかな…

とにかく、登場人物の誰にも共感出来ないんですよ。これはね、ちょっと読んでてしんどかった。

 

一応、愛の物語ってことになってるんだけど、家庭に居場所を見出せなくてフラフラしてた主婦が、たまたま出会った大学生と数回会って…そこまで運命の恋感じるかな?!っていう。

かつて大学生だった男の子も大人になって、初めての女性だったからあれほど夢中だったのだな、的に振り返ってたりするんですよね。

そんな風に思ってた女性が、生まれ変わってまで会いに来るとか、こう言いますと元も子もないのだけど、ちょっと…怖くない?

 

いや、あれですね、本の感想には自分のひねくれ具合が露呈しますね(´・ω・`)

でも、「瑠璃も玻璃も照らせば光る」を2人だけの合言葉に、生まれ変わった時の印とするのはとてもロマンチックだと思いました。

 

初めての人に固執する人間臭さと、思い出の言葉を印にするロマンチシズムの振り幅がエゲツナイ。

臭いのに爽やかっていう、謎現象に混乱をきたしました。

 

でも一番混乱したのは、なのに読ませてくるというところ。

全然理解できん…と思いながらも嫌々じゃなく、ほんとにスイスイ読んでて、気がついたら読了してるんですよ(しゅごい)

文才というものを見せつけられた感じがします。

 

最後の、伊坂幸太郎氏の「解説はお断りします」という寄稿がとても納得いったので、読まれる際は最後まで是非((❛◡❛✿)

『エチュード春一番 第一曲 子犬のプレリュード』-さすが荻原先生!描く神の視点が一味違う!

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#エチュード春一番

#子犬のプレリュード

#エチュード春一番第一曲子犬のプレリュード

#荻原規子

#あらすじ

父の転属で家族がロンドンへ向かう中、渡会美綾は合格した大学に進学する為、一人日本に残ることにした。

一人で暮らすには広すぎる家で過ごすある日、美綾は迷子のパピヨンに懐かれる。飼うつもりはなくても放っておけなく、預かることにした美綾だったが、あろうことかパピヨンは喋り出し、しかも自分を八百万の神だという。

 

大学では、幼なじみの有吉智佳に再会する。更に智佳の紹介で、同じく幼なじみの澤谷光秋とも会うことになり、美綾は同じクラスだった香住という少年を思い出す。

中学3年の春に事故死した香住には、あまり良い思い出が無い。

ところが、智佳は澤谷に香住の霊が憑いていると言い出し…?!

 

#感想

人間になりたい神様と、普通の女子大生の話。

一見すると軽い内容になりそうなのに、大きな事件を起こさずに人の内面の複雑さを書き切る、さすがの荻原先生新シリーズ第一作目です。

 

真面目で常識的な美綾は、よりにもよって家族がいなくなった新環境で、超常現象ともいうべき今まで縁の無かった世界に関わります。

美綾の中の"神様像"とかなり異なる八百万の神(犬)は、あまり役に立たない割に、小難しいことを話します。

ぷんぷんしながらも、ちゃんとお散歩や餌やりをかかさない美綾ちゃん、推せる

 

実は人って、自分で思っているより簡単に、自分に騙されてしまうと思う。それを経験するかどうかは、意志の強さは関係なく、運とタイミングのような気がします。

皆話さないだけで、特に真面目な人ほどあることだろうから、全然恥じなくて良い。

それより、そういったことがあることを認められる方が、強くなれるし人として信頼出来る。

 

逆に、簡単に人を騙して、そんな自分の深層心理をかえりみずにただの娯楽と言い切る人は、表面的に付き合うには面白いかも知らないけど、なんだか怖くて深入りしたくない。

そんなことを考えた作品でした。可愛いタイトルに、良い意味で似つかわしく無いテーマを秘めています。

シリーズ一作目だけど、単体でも楽しめる作品なので気軽に読んでみるのをオススメするよ\(^o^)/

『自由研究には向かない殺人』-ひたむきな主人公を応援したくなる!爽やかな海外ミステリ!

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#自由研究には向かない殺人

#ホリー・ジャクソン

#ホリージャクソン

#あらすじ

高校生のピップが自由研究(EPQ)の題材に選んだのは、5年前にピップの住む町で起こった女子高生失踪事件について。

失踪した17歳の少女アンディは交際相手のサル・シンに連れ去られ、サル自身はアンディの居場所を明かさずに自殺したとされている。

ピップは、その事件においてのマスコミについて研究するというが、実はサル犯人説を疑い真相究明する為のカモフラージュだった。

 

関係者への地道な聞き込みやSNS調査を通して、ピップが行き着く結末とは…?!

 

#感想

すごく面白かった。

 

まずキャラクターが好き。

主人公のピップは、サル犯人説に疑問を持って、EPQを建前に関係者達に取材を行います。

結構際どい質問もしていくピップ、引く時は引いて押す時は押す、相手を観察して会話の流れを読み、すでに公表されている情報の確認や、新たな情報も聞き出していきます。

高校生になかなか出来ないよ!彼女の聡明さが伺えますね(❛◡❛✿))

 

ミステリの主人公にはたまに、相手が嫌がるのに「真実を知りたいんです!」ってズンズン突っ込んでいくタイプがいるけど、"それは貴方の気持ちであって相手には関係あるかな…"と複雑な気持ちになる時があります(´・ω・`)

でもピップちゃんに対しては、なぜか全然、自己中だとか部外者なのにって気持ちが起こらない。

それは、ピップから思いやりと、相手への丁寧な姿勢、常に公平であろうとする意志を感じるから。

 

決して正義を振りかざすことなく、時に眠れないほど悩みながらも行動することをやめない、そんなひたむきなピップちゃん。

こんなの絶対好きになっちゃうでしょ(´・ω・`)♡

 

行動力がありすぎて、しょっちゅうハラハラさせられるけど、相棒ラヴィが良い感じに緩急を付けてくれる。

あんなに辛いことがあったのに、底無しの優しさとユーモアを忘れないラヴィ、本当に尊敬する(;ω;)

 

ちなみに本書は結構分厚目なのだけど、ピップと取材対象者の会話が対談形式で書かれていたり、ピップの作った地図が出てきたりと飽きさせない工夫もバッチリ(*´꒳`*)b

ピップ達の日常会話はユーモアにあふれていて、海外作品の良さも十分に楽しめます。

間違いなくオススメ出来る海外ミステリです!

 

『正義の申し子』-混ぜるな危険?過激ユーチューバーと底辺チンピラ

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#正義の申し子

#染井為人

#あらすじ

19歳の佐藤純は、リアルでは気の弱い引きこもりだが、タイガーマスクをかぶりユーチューブにログインすれば、たちまち“正義の申し子ジョン”になれる。

今日も悪者退治として、悪徳業者を嘲笑う生配信を行う為、架空請求詐欺を働く“㈱コスパ総合調査”なる組織へ電話を入れた。

電話に出たのは“森口”と名乗る関西弁の男。簡単に煽られる森口をおちょくるジョンの配信は大反響を呼ぶ。

気を良くしたジョンは、何とかしてもう一度森口と対決出来ないかと目論む。

そして、自分をバカにした生配信を全国に流された森口こと鉄平もまた、憤懣やるかたない思いでジョンに会うことを切望していた。

 

#感想

ユーチューバーが子どものなりたい職業ランキング上位に上がって久しいですね。

 

知り合いもチャンネル持ってて、そこそこの登録者数があるそうです。見たことはないけど(ひどい)

もはや身近にいることも珍しくないんだなぁ。

YouTube自体は、私もメイク動画とかたまに見ます。動画でやってくれるの、とても分かり易くて良いです(❛◡❛✿)

使われてたコスメがプチプラとかだと、次の日には同じの買っちゃう←チョロい

 

それでもいまだに、なんとなく苦手意識も持っちゃうんですよね(´・ω・`)

それは、一部のユーチューバーの行き過ぎた行動や、目立つ為に他人の迷惑を顧みない姿勢に嫌悪感を持ってしまうからだと自己分析。

 

もちろん一部ということは理解しているけど、ユーチューバーに限ってそんな!とか、ユーチューバーには珍しくたまにそういう人いるよね、という反応をする人は決して多くないはず。

残念ながら、そういうのは“よくあること”なんですね。

 

主人公、純(ジョンとも言うけどひとまずは“純”で統一)もそういったタイプです。

正義の申し子を名乗っていますが、やっていることはどう見ても自分の承認欲求を満たす行為で、それもどんどんエスカレートしていきます。

 

そもそもこの純、リアルでは妹に暴力をふるうとか、母親を家事する道具扱いするとか、気に入らないとすぐ声を荒げるとか…

好意的に思える要素が一切無い!

なので、最初は読み進めるのがちょっと苦痛でした(´・ω・`)

 

どちらかというと、家庭環境に恵まれず、狭い世界を歩んできてしまった鉄平くんの方が気になる。

やっていることは褒められたことではないんだけど(犯罪だし)、彼も生い立ちや環境が違ったら、面倒見の良い爽やかな青年だったのではないでしょうか。そういう世界線もあったんじゃないかな、と思わずにはいられなかった。

 

お話としては純の成長物語なのだと思います。でも、私の中での主役は鉄平くん

綺麗にまとまっているし、読後感は爽やかなので、スカッとするエンタメ小説を読みたい!って時にはピッタリですよっヽ(*'▽'*)ノ

『魔眼の匣の殺人』-あの衝撃作の第二弾!今度は"予言"が存在するのか…

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#魔眼の匣の殺人

#今村昌弘

#あらすじ

W県旧真雁(まがん)地区では、かつて班目(まだらめ)機関によって超能力研究が行われていたという。

神紅大学ミステリ愛好会の会長、葉村譲(はむらゆずる)と唯一の会員剣崎比留子(けんざきひるこ)はその真偽を確かめる為、W県の山奥までやってきた。

道中、偶然道を共にすることになった男女6人と共に『魔眼の匣(まがんのはこ)』と呼ばれる施設を訪れると、そこには予言者と恐れられる孤独な老女が住んでいた。


老女サキミは何年も前から、ここで男女2人づつ、計4人がこの2日で死ぬという予言を行っていた。

サキミの予言は外れたことがなく、予言を恐れた地区の住人によって、魔眼の匣は外と繋がる橋を落とされてしまう。

異様な雰囲気のクローズドサークルに閉じ込められた男女10人。そして第一の犠牲者が…

 

#感想

葉村譲と剣崎比留子のシリーズ、待望の第2作目です!

今回も、類を見ない条件下での殺人が起こります。


"2日間で男2人、女2人が死亡する。"

閉じ込められた男女は次第にお互いを見張るようになりますが、そもそも予言という不確か極まりないものが前提にあるんですよね。


我らが美貌のホームズ、剣崎比留子は生まれつき災いを呼び寄せるという特異体質を持っています。

そんなハンデを背負ってでも生き延びられるように、彼女は自力で優れた観察力と推理力を身に付けたという設定は、偶然探偵が殺人事件に巻き込まれ華麗に解決するというよりある意味リアリティがあるように思えます。


今村作品の魅力は、キャラクターの強力な個性と、手垢のついていない世界観、そして奇天烈な前提を読者に飲み込ませてしまうある種強引な説得力にあります!


非現実的な状況は受け入れがたくても生き延びる為に一旦受け入れて、ただただ起こった事実を追うことで推理を進めていく。

そのファンタジーさと妙に現実的なアンバラスさがクセになり、新しさを感じさせるのかも。

ラストの衝撃はエグいけど、そう落とすか…と感嘆。最後まで手を抜かないところが、とても好き。

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