#ファミリーツリー
#小川糸
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#あらすじ
従妹のリリーは小さな頃からよく「空の国」へ飛び立つ女の子だった。
空の国に行くとなかなか戻らないリリーを、僕ことリュウはじっと待ってきた。
長野県穂高のひいおばあちゃん菊さんが切り盛りする恋路旅館で、夏休みの間だけ、リュウ・蔦子姉弟と従姉のリリーは再会する。
3人は子どもだけのドリームルームで寝起きし、肝試しに出かけ、やがてかけがえのない親友となる子犬「海」と出会う。
気が強くてエキゾチックな魅力に大人でも目を引かれるリリー。
成長したリリーと僕は、当然のように付き合うようになるが、親の反対を受けて一時離れることに。
焦がれる思いでなんとか上京した僕はリリーと再会するが…
出会いと経験を経て心を育んだ幼少期から、大切な友の喪失、思春期の苛立ち、恋人同士のすれ違い、迷い、焦燥、様々な出来事を通してゆっくり成長していく“僕”と、それを取り巻く沢山の人々の物語。
#感想
小川糸さんの作品には、沢山の傷ついた人が登場します。
私はそうした中でも、ゆっくり自身の傷を癒しながら社会の中で何かやることを見つけて、コツコツと静かにひたむきに取り組む人の話が好きです。
声を送って応援したいような、陰から見守っていたいような、手を取って微笑んであげたいような、逆に励まされるような。
そんな優しくて切ない、甘い気持ちになる。
ただ、今回の作品は今までの小川作品とはちょっと毛色が違うようにも。
主人公となったリュウ君は、幼少期に心から大切な親友を亡くし、それ以来心に空洞を抱えて生きていきます。
私も犬は大好きだし家族だと思っているので決して重い軽いを言う訳ではないのですが、リュウ君の周りの人があまりにもアップダウンの激しいヘビーな人生を送っているので、彼の人生は若干平凡なものに見えてしまう(なんせ本宅と愛人宅での旅行だの、虐待経験だの、事業失敗の末の破産だのって…)。
ただ、リアルな人生ってどちらかというとそういうものでは?
だからこそリュウ君が主人公なのかもとも思いました。
上京後のリュウ君は、“普通”ながらも優しくて活き活きした少年だった頃とは別人かと思うほど、気だるく優柔不断で同じところを堂々巡りしています。
ここんとこが、他の小川作品とちょっと違う感じがする。
何も見つけられないし、見つけようともせず、夢を語るリリーに当たったりする。
そんな様子は正直イライラさせられるし、リュウ君自身もイラついている。
物語も停滞しているように感じさせられます。
私の好きな、やるべきことを見つけてコツコツ真摯に取り組む…ということもありません(´・ω・`)
この辺り、読んでてしんどいという感想を見かけたけど、すごく分かる。
リュウ君自身の気持ちも結構刺さるんだけどね。
例えば、"今日こそはケンカせず仲良く良い日を過ごそう!"と決意して恋人と会うんだけど、いつの間にか口論になって引くに引けなくなってしまう。
なんか、、、あるよね!ってかんじ。
今日こそはケンカしたくない、仲良く過ごしたいと思ってたからこそ切ない。
ただ、そんな日々を突然抜けた時、スカッと視界は晴れて落ち着くべきところへ落ち着いていきます。
読者はリュウ君と一緒にモヤモヤとした思春期を経験し、ある日ふと気が付いたら大人への階段を一歩上っていた、その追体験が出来るかんじ。
物語的に好き嫌いは分かれるだろうけど、思春期の追体験と考えればそれもあって当然かな。
思春期への"想い"って、ほんと人それぞれじゃない。