#大鞠家殺人事件
#芦辺拓
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#あらすじ
明治も終わる頃、商人の町、大阪船場で化粧品をメインとした小間物商で急成長を見せていた大鞠百薬館の長男、千太郎が神隠しにあった。
それから数年後、千太郎の妹喜代江が番頭を婿取りする形で大鞠百薬館の主人夫婦と収まる。
しかし折しも時代は戦争中、威勢よく報道される内容とは異なり、日本国中から物が無くなりつつあった。
そうして悪夢の大阪大空襲へと向かうのだが、あまりにも多過ぎる命が消えるその前に、かつては栄えた大鞠家でもそれと異なる理由で命が消されていった。
怪異な事件の連続!犯人が背負うものとは?!
#感想
"丁稚"に"番頭"、船場言葉。
厳格で威圧感のある"お家さん(おえさん)"に、我儘で勝手な"お嬢さん(いとさん)"、ゴリゴリの商人文化に馴染めず悩む"ぼん"…
とうに失われた文化の中で起こった惨劇の日々を描いた本書は、金田一耕助を彷彿させるものがありました。
この中に身を置きたいとは思わないけど、封鎖的な空間で人間が作り上げた文化への一種の憧れは禁じ得ません。
耽美的というか、変態的というか…
怖いもの見たさ。
そういった中で起きる惨劇。
最初に金田一耕助作品を彷彿させると言いましたが、実は全然違うんですよね。
金田一も余所者として事件に関わるけど、なんというか、その文化を受け入れ敬意を払って"その中に参加してる"という感じ。
かたや本書は、"外から見ている"感じがしました。
名家の衰退から、何もなくなったあとを振り返っての話だからかしら…
今の時代の作家さん(そしてミステリへの愛が深い)だからこそ書けた作品。そう思います。
物語の中盤から後半、相次いで登場する人物、それすらトリックに使うとはおみそれしました。その割には解決編が割とあっさりされてますけど…
戦争中にあっても無邪気な女学生だった文子ちゃんと、どんな時も品と優しさを忘れない美禰子さんが好きでた。
目まぐるしく変化する時代の中でも変わらない女性の強さが、好ましいのだろうなぁ。