にゃんこくらげの読書日記

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本好きの会社員が、好きなように本の感想を書くだけのブログです!

『毒を売る女』-中毒性のあるブラック短編集

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#毒を売る女

#島田荘司

#あらすじ

表題「毒を売る女」を含め8作品の短編集。


「毒を売る女」

幼稚園予備校以来のママ友、大道寺靖子は大変な美人の上、羽振りが良く周囲の目を気にしない傍若無人さを持っていた。

他の母親達から敬遠される彼女が、ある日私と医者である夫に相談したいことがあると言ってきた。

深く考えずに承諾した私だが、それは狂気を孕んだ事件へと繋がっていく。


「渇いた都市」

田中昂作は、ゴムボートを製作する中小企業のしがない現場主任である。

真面目だけが取り柄の彼の唯一の楽しみは、なじみのスナックおた福で飲むことだ。美人がいる訳でもない店だが、居心地が良く通っている。

そんなおた福で、華のように美しい恵美という女が働き出し、客の注目を一斉に集めることになった。昂作もその内の一人だが、地味な彼は名前すらも覚えてもらえない。

ところがある日恵美から相談を持ちかけられ、それは彼の人生を左右することになる。


#感想

島田荘司先生が、きっと好き放題に書いたショートショート

話の長さも特徴もてんでバラバラで、本当に好きなように書いたという印象。

それだけに、多種多様なミステリが楽しめる。


表題の「毒を売る女」はめちゃめちゃ引き込まれた!

主人公の主婦が、群を抜いてセレブなママ友の秘密を知ってしまったことで追い詰められ崩壊していく。その過程がホラーだし、どうにもならないなんとも気の毒な背景がモヤッとさせる。

イヤミス(後味が悪いミステリ)かもしれないけど、本当のイヤミスではない。

ラスト、あのように主人公に語らせたのは島田先生らしいと思う。


その他、特に面白かったのは「渇いた都市」と「糸のことジグザグ」かしら。

前者はこっちの方がはるかにイヤミスじゃない?と思うんだけど、どこか哀れで滑稽なの。主人公のキャラの差ね。島田先生ったら残酷(^^;


後者は、読む人が読めば分かる、あの大人気キャラクターがチラリと登場!

私は、「〜であります」のセリフで"あー!!"となりました笑 やっぱり好き。

疾走感が伝わり、いつの間にか語り手の焦る気持ちにシンクロしていた。

お洒落なオチも、あのシリーズならでは。

もちろん、シリーズを読んでいない人も楽しめる作品。

『ダレン・シャンⅥ』-ダレン、もう一度立ち向かう決意をする!

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#ダレン・シャン

#バンパイアの運命

(#ダレンシャンⅥ)

#DarrenShan

#ダレンシャン

#あらすじ

(あらすじもネタバレになるので

 未読で今後読むかもな人は引き返してね)

 

 

 

 


気さくで明るく、誰よりも頭の良かったカーダが裏切っていた…!

力量の試練に失敗し逃げ出したダレンは、偶然カーダがバンパイアの敵、バンパニーズをバンパイア・マウンテンに引き入れていたことを知ってしまう。


あわや生け捕りにされそうになったダレンだが、巨大水路に飲み込まれ脱走を図る。

死を覚悟したものの、なんとか生き延びたダレンは、見つかれば処刑される危険も顧みず、仲間を救う道を考える!


#感想

昔途中で挫折した『ダレン・シャン』シリーズ。

フと思い出して一から読み返し始めたのが去年で、それからゆっくり読み進めてきた。

そして今回、読み始めてすぐに分かった。ココからは未読だ。知らない世界に、ダレンと一緒に立ち向かうんだ!


ダレン・シャン6巻は、運命的な巻だった。ダレンにとって初めて運命が大きく変わったのは、もちろん第1巻でクレプスリーに半バンパイアにされた時だ。

それからダレンの価値観を変える出来事は沢山起こったが、間違いなく6巻は運命が大きく変わった2度目の瞬間だろう。それも、今度はダレンだけでなくバンパイア界全体を揺るがすような。


クレプスリーも大きく変わった。以前の感想で、ダレンを命に関わる試練に立ち向かわせたのはクレプスリーらしくない、何か考えがあってのことか?と書いたが、実際はそうではなかった。クレプスリーはダレンに親愛の情を持っていたが、やはりバンパイアらしい考えの持ち主だったのだ。

それが今回の事件を通して、"おきて"と忠誠以上に大事なものがあると感情を露わにした。


本編と直接関係のない議論だが、ダレン・シャンの世界に女性バンパイアがほとんど存在しないのはその為だろうか。

男性は掟や前例を重視する。その場の感情より、全体の利益を考えがちだと思う(カーダはより特徴的だね)。

対して女性は、良くも悪くも感情の生き物で、保守的な反面、情の為にルールを変えることには柔軟な態度を示しがちだ。


まぁ、もちろんあくまで私の主観だし、そうでない人も大勢いる。

でも、これまでのバンパイア界が頑なであったことと、カーダが仲間に相談せずにセンセーショナルな事件を起こしたことは、何か世界に偏りがあるからに思えてならなかった。


世界はバランスを保っている。

今後、動き出した運命は、バンパイアとバンパニーズの間でどのようなバランスを取ることを選ぶのだろうか。そして、ダレンは自分で3度目の運命を変えていけるのだろうか。

要注目だ。


ダレン・シャン1巻に興味が湧いたらコチラ

『マリオネットの罠』-殺人鬼の巧妙な罠に戦慄!

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#マリオネットの罠

#赤川次郎

#あらすじ

フランス帰りの上田修一は、K大学の研究生。大学教授の紹介で、住み込みでフランス語の家庭教師をすることになった。


教え子になるのは大金持ちの峯岸姉妹。姉妹が暮らす館の近くでは、トラック運転手の殺人事件があり、犯人はまだ捕まっていない。

修一の婚約者、美奈子は心配するが修一は意に介さない。

しかし、修一は峯岸家で暮らす内に違和感を覚える。"この家には何かがあるのだ"


そうして再び殺人鬼が動き出す。


#感想

赤川次郎と言えば、明るくコミカルなミステリーが印象的だが、本作は全く様相が異なっている。

物語の始まりは、秋雨けぶる人気の無い道路。そこを走るトラック、そして現れた赤いレインコートの女…

出だしからして不気味なホラー色が漂っている。


赤川次郎と聞いて、まず三毛猫ホームズを連想する私は、この後きっと冴えない刑事かお茶目な女子大生でも登場し、ドタバタしながら推理劇を展開するもんだと決めつけていた。

まぁ、半分は違っていないのだが、『マリオネットの罠』はそのようなドタバタ喜劇ではない。


被害者の背景を描き、感情移入させた所で躊躇いなく殺していく無慈悲な筆と、スリリングな話運び。

次の展開が読めるようで、でも必ず裏切られる。

私のように赤川次郎はコメディミステリこそ面白いと思っている方に、是非読んでほしい。


ちなみにこの本は1981年に刊行されている。

その為、少々時代錯誤なところはあるものの、面白さには全く支障が無いと自信を持ってお勧めする。

『折れた竜骨』上下 -殺人者は自分が殺したことを知らない

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#折れた竜骨

#米澤穂信

#あらすじ

ヨーロッパに浮かぶ島、ソロンとその領主家族が暮らす為の小さな島、小ソロン

領主の娘、アミーナは賑わう港や平和な町を愛していた。

しかしある日、父である偉大な領主から重大な秘密として、ソロン島が"呪われたデーン人"に狙われていることを明かされる。しかも領主は、ソロンを守る為に傭兵を集めるが何者かに殺されてしまう

犯人を探して島は詮索されるものの、殺人者は忽然とその姿を消していた。


異国からやってきた騎士ファルクとその従士ニコラは、自分たちの追う仇敵が領主殺しの犯人だと示唆する。彼らの敵は、暗殺騎士と呼ばれ、不思議な魔術を使うのだという。

アミーナは、ファルク達に命じ、共に暗殺騎士の痕跡を追うことにした…

果たしてアミーナは父親を殺した犯人を見つけられるのか、そしてソロンを狙う呪われた民族の正体とは?!


#感想

途中、とても困惑しました。

どうみてもファンタジーなの。

どうみても壮大なファンタジーなんだけど、シリーズの途中から読んでしまったような唐突感。

メインはソロンで起こった殺人事件なんだろうけど、それが小事に見えてしまうほど、主要キャラ達のこれまで歩んできた歴史の方が濃厚。なのにほぼスルーとな!


あらすじで書いた通り、ファルクとニコラは因縁の仇敵、暗殺騎士を追ってソロンにやって来ました。

暗殺騎士が生まれた背景や、ファルク達とどんな因縁があったのかは一応語られます。けど、暗殺騎士を追ってやっとソロンに辿り着いた、それまでの道のりについてはあっさり省略されてしまうのよね。

そんな…絶対面白いのに…

他にも、主人公アミーナはもちろん、小ソロンに幽閉されてる彼なんて、生い立ちから幽閉されるに至るまでの経緯は、セリフから読み取れと言わんばかりのアッサリさ!


ただ、読み進めると理解します。

これは紛れもないミステリ小説、限られた人物の中から殺人者を探しだす話なのだと。

そこに余計な要素はいらず、バッサバッサとカットされてスマートになった本編は、作者の見せたい物語をより印象づけています。

更に読者をアッと言わせる仕掛けが施されているのは驚嘆もの!

思わず唸って膝を打つはず(古い?)。


ミステリ好きにもファンタジー好きにもオススメの一冊でした。

『ダレン・シャンⅤ』-降りかかる死の試練!

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#ダレン・シャン

#バンパイアの試練

(#ダレンシャンⅤ)

#DarrenShan

#ダレンシャン

#あらすじ

バンパイア総会の判断により、ダレンは本当にバンパイアとしてふさわしいか複数の試練で試されることになる。

試練には一人で挑まなくてはならないし、失敗したら死一択!

まず水の試練を受けることになったダレンは、仲間達の協力の元、試練に臨む為の訓練を始める。


そんな中、バンパイア達の集まるバンパイア・マウンテンに不穏な影が…

ダレンは無事に試練を乗り越え、一族に認められるのか?!


#感想

水の試練は、水が足元から迫って来る間に巨大迷路を抜け出せ、というものでした。

それなりにハラハラはするのだけど、せっかく面白い内容なのだから、もうちょっと試練について丁寧にページを割いても良いんじゃないかとも思いました。

うーん、1つ試練をクリアしたら次の試練までにほとんど時間を与えてくれない、という制限付きの設定だから致し方ないとも言えるのかしら。


さて、後半は前半とは違った緊張感が生まれます。

今まではダレンの物語だったけど、これからは彼が踏み込んだバンパイアの世界自体に焦点が合わせられる予感。

(以降はちょっとネタバレ

 未読で今後読むかもな人は引き返してね)

 

 

 

 

まだ幼かった私が2巻に続いて衝撃を受けた5巻。

ダレンは炎の試練の後遺症で坊主頭になるんですね。しかも、おそらく生涯髪は生えてこないと…

嘘でしょ?!

児童書の主人公が火事でつるっぱげになって、二度と髪が生えないかもなんて!!


ある意味、人間からバンパイアになる変化よりも衝撃だったかも…

バンパイア化はそうなるストーリーだし、フィクションではよくある話なのでね。


なんというか、作者のリアリティへのこだわりとか、主人公だからって贔屓しないストイックさ?をみた気分。

それがダークファンタジー、『ダレン・シャン』の魅力であるとも言えるんですけどね。

『夜行』-説明出来ない現象を行く、夜行

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#夜行

#森見登美彦

#あらすじ

私は学生時代に通っていた英会話スクールの仲間たちに声をかけ、10年ぶりに皆で鞍馬の火祭見物へ出かけることにした。

年齢も、今は住んでいる場所も違う5人。

でも10年前にはもう一人いたのだ。その日、行方不明になってしまった長谷川さんが。


私たちは貴船川沿いの宿で語る。『夜行』という不思議な銅版画に導かれるように、各々の物語を。


#感想

最後まで読んだ時に、朝を感じてもらえたら嬉しいと語った森見さん。「感じましたよ」と伝えたいな。


『夜行』は不思議な、不思議な物語だった。

かつて同じ英会話スクールに通った仲間たちが、10年ぶりに再会し、鞍馬へ旅し、そこでそれぞれが今までに経験した旅の思い出を語る。


彼らの語る話は、始めは何てことない内容なんだけど、次第に奇妙な風になり、読んでいるこちらに違和感と薄気味悪さを抱かせる。

一人が語り終わると次の人が話し出す。

その語られる話がちょっと現実離れしてるんだけど、誰もつっこまず普通に流されていくの。


夜行は、夜を行くと書くけど、まさに夜の世界、寝ている人の夢をあっちこっち覗いて回るような小説でした。

夜見る夢って、突拍子もなくて、でも見ている本人にはその不思議さが分からないじゃないですか。


多くの森見作品のテイストとは異なっていて、正直煙に巻かれる感じを苦手にも感じました。だけど最後まで読んでみると、自分なりの解釈と、根拠の無い微かな希望の光みたいなものを手にした気分。

まさにその、根拠の無い微かな希望の光って、鬱々と不安な夜を過ごした後に見る、朝日みたいじゃない?

そんな風に、私は朝を感じましたよ森見先生!


何より作中に何度も登場する「世界はつねに夜なのよ」この言葉の意味を知って、"あ、良いな。その考え好きだな"と思えました。本の中で好きな言葉に出会える、それって素敵な収穫ですよね。

『アレグリアとは仕事はできない』-あなたの隣の彼女達を描く

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#アレグリアとは仕事はできない

#津村記久子

#あらすじ

表題『アレグリアとは仕事はできない』と『地下鉄の叙事詩』の2作収録。


アレグリアとは仕事はできない』では、主人公のOLミノベが、複合機アレグリアに振り回されてイラついている。

アレグリアはまるで我儘な女のように気まぐれでプライドが高く、少ししか動かないのにすぐ休む。そのくせ、男性社員が使用する際は問題なく良い仕事をするのだ。

ミノベは同じく女性社員のトチノ先輩と、この不満を分かち合いたいが、真面目で優しい先輩は愚痴っても仕方のない事柄に執着することはなく、ミノベは孤独を感じる。


しかしついに、ミノベが恐れる大量コピーの納期がやってきてしまう。

予想通りアレグリアが機嫌良く働くはずもなく、それは事件を引き起こす…


『地下鉄の叙事詩』では、不満いっぱいの乗客を乗せた満員電車の中の話。

4人の乗客の視点から、リレー式で話が進められる。


#感想

ポップな表紙から、明るいお仕事コメディーかと思ったらとんでもなかった。


主人公ミノベはのっけから複合機アレグリアに怒っているのだが、ほとんど激怒と言っていい、すさまじい怒り方なのだ。

こんなに怒るか⁈と思うが、読み進めるとミノベの不満と孤独がないまぜになった鬱々とした心境が伝わってくる。


ミノベ本人はそんなにヤバくも、根性がねじくれてもいないのだろう。ホントは。

"組織の中の個人"が持つ問題が、彼女達を追い詰めるのだ。

でも、要所のユーモラスな書き方にはクスッとさせられ、それが救いだった。


私が好きなシーン

P.41

常に、どうやったらうまく手を抜いて仕事ができるかについて考え、そのことにあくせくするあまり、気がついたらむやみに勤勉なことになって無駄に動いている自分と比べて、先輩は泰然自若としているように思えた。

 


2作目は、おっと、なかなか重たいゾ。

登場人物、全員何かしらの不満と不安を抱え、負のオーラ全開の狭い車内での出来事。


満員電車なので、身体の距離が近く、どうしても周りの乗客を意識し更に不満を募らせていく。

ただ、語り部が変わると分かる、自分が思っていることはそのまま思われているということだ。

それがだんだん面白味を出してくる。

ペラペラだった登場人物に、違う角度からの視点が加わって厚みが出てくる。


短いけどどちらの話も上手いな、と思った。

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