#戦場のコックたち
#深緑野分
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#あらすじ
第二次世界大戦下、アメリカ生まれの青年ティムことティモシーは冒険へ出るような気持ちで志願し軍に入る。
体格に恵まれていたティムは、さぞ良い兵士になれるだろうと訓練に励むが、現実は彼の想像と異なり、モヤモヤした日々を過ごすことになる。
そんな時、ティムは優秀なコックのエドワードに、食いしん坊であることを買われ、コックにならないかと誘われる。
こうして歩兵でありコックとなったティムは、仲間達と共に戦場へ赴き、ある時は銃を、ある時は鍋を振るう。
日々激しさを増す戦争の中、笑い、泣き、悩み、憤り、不安を抱えながら歩を進める兵士達のリアルを描き切った長編傑作。
#感想
戦争物であり、日常(戦場の日々を日常というのも変だけど)で起こる謎を解くミステリでもある本作。528ページと大作である。
それもそのはず、作中では、アメリカが第二次世界大戦に参戦した1942年から終戦までの約3年間の月日が流れるのだ。
主人公のティムは、優しく健全でちょっと子どもっぽいところのある普通の青年だ。
それがこの3年間、戦場でコックをしながらどう変わっていくのか、はたまた変わらないでいられるのかも見所である。
ちなみに私が"戦場のコック"に持つイメージは、主に裏方で常に兵士達の食事を作っている食堂のオジサン的ポジションだった。
ところがそれは全くの間違いで、コック達はコックである前に一兵士。
基本は戦うことが仕事で、料理に関することはプラスαのようなものだった。
更に、まともに調理出来る環境にないことも多い為、そんな時は配給品(レーション)を配るのみ。
作中では、主人公によって"給食係"と例えられているがなるほど、分かりやすい。
本作は面白いのだが、時々彼らが普通にコーラを飲んだり冗談を言い合うシーンにムズムズと落ち着かない気持ちになることがあった。
それは戦場の異常さと、普通でいられる様のギャップに複雑な感情を持ったからだ。ただ、多分ティム達も平気な訳ではないのだろう。慣れもあるかもしれないが、常に考え続けたら心を保っていられなくなるから、普通の男でいようとするのではないか。
後半では、そんな表層も剥がれていくのだが…
つくづく戦争なんて、生き物にとって不自然極まりない行為だと思った。
食料やメスを確保する為の縄張り争いなどではなく、愛国心だろうが結局は人から指示されて心が壊れていくほど殺し合う。やがてやめたいのにやめられず、病んでしまうからやめようとするなら味方から殺される事態にさえ陥る。異常である。
辛い気持ちになり涙する場面も度々あったが、読後は安らいだ気持ちになれた。