#革命前夜
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#あらすじ
時は1989年、ピアノに打ち込む眞山柊史(まやましゅうじ)は、敬愛するバッハを感じながら理想の音を求める為、ドイツドレスデンの音楽大学に留学する。
やっとの思いでやってきたドイツだったが、東西に隔てられ彼らがDDRと呼ぶ東ドイツは長い貧困と圧政に色を失っていた。
戸惑いながらも必死にピアノへ向かう柊史だが、同じく音楽大学に通う学生達の才能と技術に圧倒され、次第にスランプに陥っていく。
更に、素晴らしい天才だが自己中心的で奔放なバイオリニスト、ラカトシュに目をつけられ練習に付き合わされることになり、柊史はますます自分を見失いスランプを深刻化させる。
もがき苦しむ柊史は、ある日教会で運命的な演奏に出会う。オルガンを奏でる美しい女性はクリスタといい、その才能は疑いようがない。にもかかわらず、彼女はシュタージ(国家保安省)の監視下にあり、満足に演奏出来る環境になかった。
国に翻弄されながら、自由や理想といったそれぞれの思いを音楽に求める青年達の、激しい生き様を描く。
#感想
音楽を題材にして、人種差別や圧政からの脱却を描いた作品と聞くと、"音楽の前では人は皆何者でもなく平等だ"的な物語を想像します。
しかしこの物語は違う。
むしろ真逆で、ガンガンに生まれた場所が影響する。自国の貧富とか、肌の色とか家族とか…
音楽の前では皆同じ?平等?
なにそれ頭に花生えてんの?って位、平和ボケした気持ちで手に取ると、感情の無い絶対零度の目で蔑まれる。
前髪ひっ掴んで、無理矢理眼前に見たくも無い現実突きつけられる感じ。
頑張れば必ずしも結果が出る訳じゃないのはどの世界でも言えるけど、最もシビアなのは間違いなく芸術の世界だろう。
大人であれば分かり切っている事実だが、だからこそフィクションでは、努力したらしただけ報われる物語を見たいと思うのが人情。
作者の須賀女史は、読者のそんな細やかでかわゆいメルヘンな気持ちを筆(もしくはキーボード)でぶった斬る。
更に、生まれ等、自分ではどうしようもないことがどれだけ大きな壁になり得るかを見せつける。
未来あるキラキラ目の少年少女が読んだらトラウマ級だよ!どうすんの!
我々平和ボケした国の凡人は、子ウサギのように震えながら読み進めるしかない。
せめて、せめて見届けるのだ…
須賀女史の描く物語が素晴らしいのは、どんなに圧倒的な力を見せられてボッキボキに折られても、その中から必ず立ち上がって一矢報いようとする人物が現れるところだ。
その姿は気高く美しく、応援せずにいるなんて不可能。
まさに、信じたい"人間"の姿がそこにある。
須賀女史の巧みな飴と鞭によって導かれる先は、この坂を登り切れば頂上がある、そんな予感をはらんだ美しいラスト。まさに革命を感じさせる、注目だ。