#慟哭
#貫井徳郎
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#あらすじ
胸に穴があいている…。
男はその埋めがたい虚無感から、次第に宗教へと救いを求めていく。男にはどうしても手にしたいものがあり、その渇望はやがて理性をもしのぐ。
舞台は変わって捜査一課。
課長の佐伯は、警察組織の中で孤立した存在だった。彼自身は有能だったが、生い立ちが周囲に色眼鏡をかけさせ、佐伯をも頑なにしていた。
そんな折、幼女誘拐事件が起り、采配は佐伯が振ることになった。騒ぐ世間、必死に捜査する警察。
しかし事件は解決の糸口を見せない。更に苦悩する佐伯を追い詰める出来事まで起き…
人の脆さをとことん突き詰めた傑作。
#感想
読み終わって知ったのだけど、これ、貫井さんのデビュー作なの?!
この完成度、文章の重厚さ、語り手に感情移入させる技…
え、天才じゃん
物語は、虚無の支配から宗教に救いを求める男の話と、幼女誘拐事件を追う捜査一課長を中心にした話とが交互に進められる。
世の中には、生まれた時から自分が付き合っていく"設定"を上手く利用しようと考える人と、しがらみだと感じて何とか逃れようとする人がいる。
他人からは羨ましいと思われるスペックも、本人にとっては足枷でしかないことも。
若手ながらキャリア組で課長の役職につく佐伯は、後者だった。
きっと佐伯が前者だったら、もっと生き易かったんだろうな。
優秀なんだから自信と余裕を持って、そして過去与えられなかった父親の愛情を、今度は自分が与えることで自身の癒しに出来たなら…
佐伯だけではなく、周りの人も少なからず幸せになれただろう。
気の毒ではあるけど、やっぱり私は、佐伯を純粋に同情出来ない。壊れた男の犯した罪を別にしても。
白状すると、読後はタイトルがしっくり来なかったんですよ。だけど一方で、佐伯に対する貫井さんの慈悲なのかもしれないとも思う。